第三部集団心理 第3章2節 美しい患者さんが来た時、医者の心の中は? #投影 #転移 #早稲田メンタルクリニック #精神科医 #益田裕介

2022-04-12に共有
00:47 共感するほど誘惑される
03:06 気づいたら我慢する
06:29 心は傷ついた子ども、体は成人
07:59 幸せは外の世界で手に入れるもの
09:38 概念を演じる
11:44 投影はよく起きる
13:23 一周回って「幸せ」とは

本日は「きれいな女性/男性が来た時、治療者は?」というテーマでお話しします。

これはよく聞かれますし、話題になります。
医療関係ではない人と話をしたり飲み会に行ったりするとだいたい聞かれます。
「きれいな人が来たときに、向こうが好きって言ってきたら益田どうするの?」と。

その話をしようと思います。

■共感するほど誘惑される

きれいな人が来たときに、その人の好意にこちらがドキドキしますかということですが、まあ動揺します。

相手はこちらに好意を向けたり、助けて欲しいという思いだったり、医師に対して父親転移をしていたり(理想の父親像を重ねる)、安心させて欲しいと願ったり、安心感を感じたりします。

人間の脳は1つのことだけを考えるのではなく、いろいろなことを考えます。
当たり前ですよね、体も右手を動かしながら左手で頭を掻いたりできます。心臓も動かしています。それは脳みそがやっています。
これは肉体を動かす脳がやっているわけで、感情についても同時にいろいろなことを考えます。
そういうものを治療者は向けられます。

また、僕らは患者さんに共感しています。
患者さんの立場に立ち、患者さんの気持ちはどう動いているのだろう、ということを考えます。
患者さんが言葉にできないものをその患者さんに乗り移って言葉にしようとしているので、共感すればするほどその誘惑に気づくというか、誘惑されてしまいます。

それはそうですよね。
相手は自分のことが好きだなということがわかるわけです。

相手が気づく前にこちらが気づくこともあります。
「あれ、この人もしかして、僕に対して性的な意味での好意を向けているかもしれない」と先に僕が気づき、それで僕が照れた感じの返答をしてしまったときに、患者さんがギョッとして「私は主治医のことを好きだと思っていたんだ」ということに気づいて恥ずかしくなり、自分を責めてしまうというようなことまで起きます。
これはよくあります。

■気づいたら我慢する

僕らは気づいたらとにかく我慢します。

当たり前ですが、気づいたら我慢します。条件反射です。
そう自分に言い聞かせます。

僕には家族、奥さん、子どもがいますし、医師の仲間、スタッフがいて、他にも多くの患者さんがいます。
そこで僕がこの人を好きになってしまったら、全てが壊れてしまいます。

一番悲しいのはその相手です。

患者さんが一番困るわけですから、とにかく我慢します。
「あ…」と早めに気づいた方が良いのです。
「僕はこの人を魅力的に思っているな」「ちょっと我慢しておかなければダメだな」と早めに気づくようにしています。
当たり前の結論ですが、そういうことです。

僕は防衛医大出身で、防衛医大は男子が多かったですし、レスリング部だったので男くさいところにいました。
卒業したら病棟には看護師さんがたくさんいますし、患者さんの半分は女性です。精神科は女性の方が多かったりします。
学校を卒業したばかりの頃は、女の人は多いし、外出は自由だし、冷えたビールは飲めるし、その自由に圧倒されました。あの時の興奮、困惑はすごく覚えています。
あれから10年以上経つのでその時ほどには誘惑を感じませんが、よく思います。

防衛医大でなくても医学部は男子が多いので、きれいな女性が来たときに誘惑を感じるのはわかります。
自分もそうだからたぶん他の人もそうだろうとわかるので、互いに監視しあって我慢しているのです。

これは病院あるあるです。
看護師さんやスタッフの人に、きれいな人や芸能人のような人が来たときに、「益田先生、もしかして照れたりしちゃったんじゃない?」と言われたりするのですが、これはセクハラやパワハラとも違って互いに気をつけようよという合図なのかなと思います。

■心は傷ついた子ども、体は成人

診察室は特殊で、狭いところで密室です。

2人きりの空間で、患者さんはその瞬間、傷ついた子どもでもあります。
子どもの時の心や無力さ、無防備なところで自分の気持ちを吐露します。
でも肉体は成人の女性だったりするわけです。
体は大人なのですが心はすごく子どもで、このようなアンバランスな状況に僕らは閉じ込められ、いろいろな複雑な気持ちを味わいます。

彼女らは、子どもなのですが自分の持っている武器は成人の肉体です。
だからすごく助けてほしいという気持ちと、治療の場が大事だと思えば思うほどどんな手を使ってもそれを手放したくないという気持ちがあり、それが恋愛感情のようなものになることはおかしくはありません。
恋愛的なもの、性的なものを使って、それを武器にしてこちらの気持ちを惹きつけたいと思うのは恥ずかしいことではありません。それは普通のことです。

■幸せは外の世界で手に入れるもの

当たり前ですが、求めているのは益田裕介ではなく別の誰かです。
彼女、彼を幸せにしてくれる誰かです。
それは診察室で手に入るものではなく、外の世界で手に入れなければいけないものです。

主治医は彼ら、彼女らを幸せにすることはできません。
制限がありますし、その制限を取り払ったところで幸せにできません。
それはなぜかと言うと、「主治医」というものを壊すからです。

欲しいのですが、手にした瞬間、それは安心できる主治医、治療者というものを壊してしまう。
性的なものやお金ではなく、単純に職業としてその人を真剣に治療したいということや、誠実さ、人間が持っている「赤の他人だけど優しい」というものを壊してしまいます。

そうすると患者さんは「赤の他人に助けを求める」ということを覚えられなくなってしまいます。
なぜなら、医師でさえ誘惑に負けてしまうのに、ましてやこの人たちは助けてくれないだろう、この人たちも誘惑に負ける人たちなのだ、と信用できなくなってしまうのです。
だからかわいそうですし、不幸になってしまいます。

■概念を演じる

ですから、僕らは「概念を演じる」ことを常にやらなければいけません。
いつも思っています。

僕は「益田先生は立派です、すごいです」とYouTubeのコメントで言ってもらえます。同時にカスだとかアホだとか言われますが、95%くらいは僕のことを褒めてくれます。

95%の人がそう言ってくれるのですが、それは益田裕介を言っているのではなく、概念に対してです。
主治医、精神医学といったものに対して共感して褒めてくれているので、別に益田裕介ではありません。

益田裕介なのか、編集のさわきさんなのか、小松さんなのか、切り抜きの人たちかわかりませんが、とにかく益田裕介的なもの、チームで演出している概念に対して褒めてくれています。
そして概念を演じるということはとても重要です。
その概念が、赤の他人への信頼を取り戻す、ということです。

患者さんたちはどうにかして壊してやりたいのです。
「やっぱり世界は信用できないじゃないか」と言ってやりたいのです。

一番最初の家族関係が不幸にも良い家でなかった場合、家族から虐待があり良い家族ではなかった場合、でもよその家は幸せそうに見えたときに、よその家も一皮めくれば自分たちと同じなんだと言いたいですよね。

私だけが不幸だったのではないと思いたいのです。
だから壊したいのです。

その共謀関係に入ってしまえば本当に行き場をなくしてしまうので、我慢しなければなりません。

■投影はよく起きる

診察の中で、何気ない感じで言うこともあります。
「恋愛はどうなんですか?」「恋人はいるのですか?」「パートナーの人と暮らしているのですか?」と。それは患者さんの今の調子を知るために聞きます。

その時に患者さん側が、「あれ?なんでそんなこと聞くの?」「もしかして私のこと好きなんじゃない?」と思うことがあります。
これはよくあります。

こういうことを「投影」と言います。
自分が相手のことを好きなときに、相手の方が自分のことを好きだと思うことです。
そういうきっかけで恋愛感情に気づくことはよくあります。

そういうことを言う主治医はダメなのではないか、誘惑しているのではないか、と批判されることもありますが、それは少し違います。的外れな批判です。
これはこちら側の責任ではないなと思います。

それはなぜかと言うと、投影はどんなきっかけであれ気づく時は気づくからです。
何を言ったから投影が起きた、というものではありません。

概要欄続きはこちら(字数制限のため)
wasedamental.com/youtubemovie/5903/#c01

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一般の方向けに、わかりやすく、精神科診療に関するアレコレを幅広く解説しています。動画における、精神分析や哲学用語の使用法はあくまで益田独自のものであり、一般的(専門的)な定義とは異っているところもあります。僕がもっとも説明しやすいとたまたま感じる言葉を選んだだけなので、あまり学術的にとらないでいただけると嬉しいです。
   早稲田メンタルクリニック院長 益田裕介

【自己紹介】
益田裕介
防衛医大卒。陸上自衛隊、防衛医大病院、薫風会山田病院などを経て、2018年都内で開業。専門は仕事のうつ、大人の発達障害。といいつつ、「なんでも診る」ちょっと変人よりの町医者です。
趣味は少年ジャンプとお笑い。キャンプやスキーに行きたいです。
2020年6月5日より断酒継続中。

【参考】
厚労省みんなのメンタルヘルス www.mhlw.go.jp/kokoro/
カプラン 臨床精神医学テキスト第3 www.medsi.co.jp/products/detail/3509
倫理規定について note.com/mentalyoutubers/n/nb130991f3fa4

【コメントについて】
・コメントは承認制です
・コメントは益田が目を通していますが、手が回らず、質問にはお答えできません。ご理解よろしくお願いします。
・(のちのち)自分や他人を傷つける可能性のあるものは承認されません
・他の人への返信も原則禁止です。共感的なもの、相手に役立つものは一部、許可しています。短い時間で判断しているので「どうしてこれがダメなの?」みたいなものもあると思いますが、それはこちらのミスであることも多いです。ご了承ください。

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コメント (21)
  • 『あくまで患者なのでそういう目では見てないです』って言われないところに、先生の優しさと人間らしさを感じました
  • このように素直な気持ちを話してくれる精神科医の先生っていないよね笑 益田先生みたいに素直にYouTubeで話をしてくれるの凄いなって思いました。
  • 20代の頃から、30年越しでお世話にになっている心療内科の先生がいます。 父親代わりになってもらいました。実の父親以上に、私の問題の助けになってもらいました。 まさに赤の他人のスタンスを取りつつ、いつも私の味方で誰よりも頼りになりました。 他人の中には誠実に助けてくれる人もいる、それを身を持って知ることが出来た患者の1人です。 良い主治医に巡り合えて、本当に私は運が良くて幸せだと動画をを見てあらためて思いました。
  • 「つまり陰キャなんですね」つていうまとめがいきなり過ぎて面白かったです、笑
  • 自分がこの先生の奥さんだった場合は、正直いって「我慢かよ」ってガッカリしちゃう内容だったけど、誠実で嘘偽りのない内容だと思いました。
  • @bisejp
    以前お腹を下してしまい、かかりつけ医の内科に行ったら、オジサマ先生の代わりに超イケメンの息子さんが外来担当してて、恥ずかしくて痛恨の極みと思ったことを思い出しました🤣 何で同じお医者さんなのに、人間ってステキな人に良く見られたいと思っちゃうんだろう…。
  • @mylux704
    月1回通っている精神科で、ある時楽しそうな笑い声が聞こえてきて、何を話しているのかと気になりました。診察室から出てきたのは、芸能人オーラのある若い女の子。次に私が入ったんですけど、いつもより明らかにテンション高めで、リアクションも大きいし、「先生も人間なんだなぁ」って笑ってしまいましたね。
  • 8:50 『安心できる主治医、治療者というものを壊してしまう』というのは、とても納得出来る表現でした。父親を亡くしている私は、(本当の父親よりは若いですが)父親でもおかしくない年齢の主治医に対して、『お父さんだったら良いのにな』と感じています。陽性転移を起こしているな、というのは割と早々に気が付きました。主治医に対して安心感、信頼感があるのは、この陽性転移も1つかもしれませんが、主に『主治医として、この人は絶対に私を裏切るようなことはしない』という『治療者』としての絶対的な安心感なんだろうなと思います。 最後、益田先生が感じる幸せの中に『患者さん』の存在も含まれていることに多くの方が救われたと思います(ˆˆ)✨
  • 益田先生のご家庭が上手くいっているから誘惑とか言えるんですよね。正直な先生だなぁとずっとニタニタしてしまいました。友達は産婦人科に行ったら先生がイケメン過ぎて他の病院に変えました
  • 凄く言葉を選んでて真摯に答えてるのがとても好印象でした
  • なぜか相談をされやすく、そこに巻き込まれたり飲み込まれそうになる事が多かったので、増田先生の「自分は相手が求めてる概念に過ぎない」と仰る意味が良くわかりました。 私個人ではなく、私に別の何かを重ねてるのを念頭に置いて対応するということはすごく大切なのですね。
  • @user-jf7jj8ne4t
    照れちゃう益田先生😂奥さんいても魅力をかんじちゃうことがあるのを認めてて人間らしくて正直で人として好感が持てます。
  • @non394
    「動揺する」「我慢する」と仰るのが、とても誠実で好感が持てました😊 そんな益田先生であれば、おそらくは美人の患者さんに好意を寄せられたこともあるのでしょうね🤭 やはりドクターが発信している某チャンネルで、美魔女の患者さんとの対談シーンでは、やはりそのドクターも何となくテンションが高かったのを思い出し、微笑ましくなってしまいました(^^)
  • 「赤の他人に助けて欲しい、と言えること、そしてを助けてもらって信頼してもらうこと」そのために、プロフェッショナルを感じました。
  • いつもよりテンション高めで面白かったです。 ほんとドクターって 患者さんのことこんなところまで、 考えてくれてるんだと知れました。 ほんと、心からありがとうと思いました。
  • 先生の我慢する、っていい言葉です。結局、それしかないもん。メンタルに問題を抱えている人の中にはセクシーな人多いですしね。
  • @rgb23413
    医者も人間である人間味を、堅苦しくなく小難しくなく話してて、何となく納得しました。
  • このテーマからここまで深い話出来る主治医なかなかいない
  • 「赤の他人だけど優しい」を色々な人から感じられるようになっている自分に゙気が付きました。恋人みたいな存在とは違ってハンモックみたいに安心感があります。
  • 「患者さんたちはどうにかして壊してやりたい」「やっぱり世界って信用できないんじゃないかと言ってやりたい」この言葉で、自分の過去の行動の理由がわかった気がしました。信用できる父親を探していたんだと思います。なんだか涙が出てきました。先生、ありがとうございます。